病院の検査担当者が解説!新型コロナの抗原検査を自分で検査するときのポイント
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新型コロナウイルスの感染症法における分類が、2023年5月に2類から5類へ引き下げられました。
それに伴い自治体などで行われていた無料の検査所は終了しましたし、濃厚接触者を調査することもなくなったので、保健所から検査を受けるようにと言われることもなくなりました。
ですが新型コロナウイルスの感染流行自体はなくなったわけではないので、発熱や咳などの症状があるときに、セルフチェックとしてご自身で抗原検査キットを用意して検査をするかたもいらっしゃると思います。
現在はドラッグストアやインターネットでも抗原検査キットが購入でき、病院に行かなくても検査が受けられるようになりました。ですが医療従事者ではないかたが検査を行うため、正しい検査が行われなければ、逆に感染を拡げてしまいかねません。
そこで今回は、新型コロナウイルスの抗原検査をご自身で検査するときに知っておきたいポイントについて、病院でコロナの抗原検査を嫌というほどやっている臨床検査技師が解説します。
抗原検査とPCR検査、抗体検査の違い
新型コロナウイルスの検査には、
- PCR検査
- 抗原検査
- 抗体検査
の3種類があります。
詳しくはこちらの記事に書きましたが、この3つの検査には、ざっくり言うと以下の表のような違いがあります。
抗体検査は「今感染しているか」を調べるには適していない
抗体検査は、からだにウイルスが侵入してきたときに、ウイルスを攻撃するためにからだがつくり出す「抗体」という物質を測定する検査です。
抗体は感染後、回復したあとも検査で陽性になります。またワクチンは、あらかじめ抗体をつくっておくことで、ウイルスがからだに入ってきたときにすぐに攻撃できるようにするためのものなので、ワクチンを接種したかたも検査で陽性になります。
そのため抗体検査は、過去に感染したことがあるかどうかやワクチンの効果などを調べる検査であり、「現在感染しているか」を調べるには適していません。
抗原定性検査なら自分でも検査ができる
「現在感染しているか」を調べるには、PCR検査か抗原検査を行います。PCR検査はウイルスの遺伝子を、抗原検査は「抗原」という、それぞれのウイルスに特徴的なタンパク質や糖質からなる物質を検出する検査です。
PCR検査と抗原検査を比較すると、PCR検査のほうが抗原検査よりも感度(ウイルスに感染している人を、検査で正しく陽性と判定できる=感染者を見逃さない確率)が高いといわれています。
しかし検査機器が必要なため、検査ができるのは保健所や検査センター、ある程度の規模の病院などに限られますし、結果が出るまでに数時間から数日かかります。
抗原検査には定性検査(陽性か陰性かを判定する方法)と定量検査(ウイルスの抗原の量を測定する方法)があります。定量検査は検査機器が必要ですが、定性検査であれば検査キットがドラッグストアやインターネットでも購入でき、医療従事者でないかたでもご自身で検査が可能です。
結果も30分から1時間程度で出るため、抗原定性検査は発熱や咳などの症状があるときのセルフチェックに適しています。
ここからは抗原定性検査についてお話ししていきます。
抗原検査キットを購入するときの注意点
抗原検査キットには医療用、一般用、研究用の3種類がある
現在はドラッグストアやインターネット上で抗原検査キットが購入できるようになっていますが、抗原検査キットには「医療用」、「一般用」、「研究用」の3種類があることをご存知ですか?
医療用は、新型コロナウイルスの診断のために、医療機関で医療従事者が使用するものです。現在は特例として保険薬局(調剤薬局)で一般のかたにも販売されています。
一般用は、一般のかたが検査キットを入手しやすくするために、OTC医薬品(医療機関などで使われていた医薬品を、一般のかたも購入できるように国の承認を受けたもの)にしたものです。一般用は保険薬局(調剤薬局)のほかに、ドラッグストアやインターネットでも購入が可能です。
医療用、一般用ともに、購入する際には薬剤師から使用方法や使用上の注意点について説明を受ける必要があります。
ドラッグストアでお薬を買うときに、薬剤師さんから説明を受けますよね。あれと同じです。
医療用または一般用を購入する
購入の際には、研究用ではなく医療用または一般用を購入してください。
医療用と一般用は、医薬品医療機器等法という法律に基づき、「正確な検査結果が出るのか」、「品質管理はきちんとされているか」といった審査を受け、国によって承認を受けています。
一方で研究用は国の承認を受けていません。感度や品質管理については製品やメーカーによってまちまちで、中には品質がよくないものも販売されています。
水道水で検査しても陽性になった、なんてニュースもありましたね。
そのような検査キットを使えば、本当は感染していないのに検査で陽性になったり、感染しているのに陰性と出たりする可能性が高くなります。
医療用や一般用には「体外診断用医薬品」または「第一類医薬品」と表示されています。パッケージをよく確認してから購入してくださいね。
インターネットで購入するときは注意!
抗原検査キットをインターネットで購入する際には特に注意が必要です。
医療用や一般用の抗原検査キットは、「体外診断用医薬品」や「第一類医薬品」という名前のとおり、医薬品に分類されています。
実は医薬品は法律により、レビューや★評価を書くことが禁止されています。つまり医療用や一般用の抗原検査キットにはレビューがありません。
一方で研究用は医薬品ではないため、レビューを書くことができます。そのため「高評価順」や「レビュー件数順」などで検索すると、検索上位は研究用で占められることになります。
また単に「コロナ 抗原検査キット」などで検索しても、研究用が数多くヒットして医療用や一般用がみつけにくい状況です。
そんなときは検査キットの「品目名」で検索すると、医療用や一般用をみつけることができますよ。医療用、一般用の検査キットの一覧が厚生労働省のホームページで公開されているので、この品目名をコピペして検索してみてください。
新型コロナウイルス感染症の一般用抗原検査キット(OTC)の承認情報ー厚生労働省
医療用や一般用を製造販売しているのは、ロシュやシーメンス、アボットなど、臨床検査技師にはおなじみのメーカーさんです。
正確な検査結果を出すためには
新型コロナウイルスの抗原検査は、おおまかに以下の手順で行います。
- 検査キットの物品や検査の手順を確認する。
- 鼻に綿棒を入れ、鼻の粘液を綿棒に採取する。
- 綿棒を薬液の入ったチューブに浸す。
- 綿棒を入れたままチューブを10回程度つまむ。
- 綿棒を取り出し、チューブにキャップをつける。
- カセットに薬液を3滴程度垂らす。
- 数分〜数十分後、ラインが出るかどうかを判定する。
※これはあくまでも大まかな流れをご紹介しています。検査する際は必ず検査キットの取扱説明書をよくお読みになり、説明書の手順にしたがって検査してください。
感染対策を行う
たとえば「発熱したお子さんの検査をお母さんやお父さんが行う」など、ご家族の検査をかわりに行うケースもあると思います。
抗原検査はウイルスがついている(可能性がある)綿棒などを扱うわけですから、検査をする人は感染のリスクがあります。そのため「検査をする人」が「検査を受ける人」から感染してしまわないように、感染対策をしっかり行いましょう。
まず検査をする人は、マスクや使い捨ての手袋などをつけます。鼻に綿棒を入れるとくしゃみや咳が出やすいので、飛沫を浴びないようにご注意ください。
検査が終わったあとの綿棒やカセットなどは、ビニール袋にまとめて速やかに捨てましょう。検査に使用したテーブルなどもアルコールで消毒し、手洗いをしっかり行ってください。
鼻の粘液をきちんと採取する
正しい検査結果を出すためには、まず鼻の粘液をきちんと採取することが大切です。
抗原検査では、鼻の粘液にウイルスの抗原が含まれているかどうかを調べます。つまりきちんと鼻の粘液が採取されていなければ、どんなに感度の高い検査でもウイルスを検出することはできません。
綿棒の入れかたや、片方の鼻だけか両方から採取するかなど、採取方法は検査キットによって多少の違いがありますので、説明書のとおりに採取しましょう。綿棒もどんなものでもいいわけではなく、検査キット付属のものを使用してください。
説明書のとおりに検査する
次に綿棒を薬液に浸してつまむことで、薬液にウイルスを移します。
カセットには人工的につくられたウイルスの抗体が入っており、ウイルスを移した薬液をカセットに垂らすことで、薬液中のウイルスの抗原とカセットの抗体が反応して、判定ラインが浮かび上がるようになっています。
このとき、薬液の量が少なくても多すぎても結果に影響が出ます。また抗原と抗体が反応するのに数分から数十分かかります。
説明書に「〇滴垂らす」とか「垂らしてから〇分後に判定」と書かれていますから、タイマーなどで計って時間どおりに判定してください。
判定のしかたを間違えないように
判定の際には、カセットに判定ラインが出るかどうかで陽性か陰性かを判断します。
抗原検査キットによって呼びかたは異なりますが、カセットにはテストラインとコントロールラインという2種類のラインがあります。
テストラインが出れば陽性、出なければ陰性と判定します。テストラインはどんなに薄くても出れば陽性と判断します。
一方コントロールラインは、「検査が正確に行われたことを確認するライン」です。このラインが出れば検査が正しく行われたことを意味するため、感染していてもしていなくても必ずラインが出ます。
逆にコントロールラインが出ない場合は、検査になんらかの異常があったと考えられますので、テストラインが出た出ないにかかわらず、その検査は無効です。新しい検査キットで、最初(綿棒で鼻の粘液を採取するところ)から検査をやりなおしてください。
陽性になったときは
新型コロナウイルスが5類に移行したことにより、現在はコロナ患者さんへの法律に基づく外出自粛のお願いなどはありません。
ですが厚生労働省は、発症後5日間は特に他人へ感染させるリスクが高いことから、発症日を0日として5日間(5日目に症状が続いている場合は症状がおさまってから24時間経過するまで)は外出を控えることを推奨しています。お子さんは「発症から5日経過し、かつ症状がおさまってから1日経過するまで」は、学校が出席停止になります。
また発症から10日間はウイルスを排出する可能性があるため、マスクを着用したり、お年寄りや妊婦さんといった重症化しやすい人と会うのを控えたりなど、まわりの人へうつさないように気をつけてください。
体調が悪くて医療機関を受診したい場合は、受診する前に自治体の新型コロナウイルス相談窓口やかかりつけ医へ連絡し、受診可能かどうか確認をお願いします。
病院には免疫力が低下していている患者さんや、高齢者や基礎疾患があるなど重症化リスクが高い患者さんも多いです。感染防止のために、感染症患者さんの待合室や診察時間を分けている病院もありますから、受診前に連絡してくださいね。
陰性だったときは
抗原検査はPCR検査に比べると感度が劣ります。また無症状や発症直後ではウイルス量が少ないため、医療用や一般用の検査キットで正しく検査をしたとしても、感染しているのに陰性になる可能性はゼロではありません。
そのため検査で陰性だったからといって、「新型コロナウイルスに感染していないことを100%証明する」、いわゆる陰性証明にはなりません。
発熱や咳などの症状があるのであれば、マスクを着用する、不要不急の外出を控えるなど、感染対策をお願いします。
おわりに
新型コロナウイルスの抗原検査を医療従事者でないかたも行えるようになったことで、症状があるときに手軽にセルフチェックをして、感染対策をしたり適切な医療機関の受診へつなげたりすることができます。
ですが知らずに研究用キットを購入してしまったり、説明書とは違った手順で検査してしまったりすると、正確な検査結果が出ないこともあります。
その場合、本当は感染しているのに検査では陰性になる、という可能性もあります。「検査で陰性だったから」と仕事や学校、レジャーなどへ出かけると、感染を拡げてしまうおそれもありますから、正しい検査を行い、適切な感染対策をとるようにしてくださいね。