梅毒感染者が急増中!梅毒のちょっとややこしい検査結果の見方

記事内に広告を含みます。

梅毒のちょっとややこしい検査結果の見方

Illustration by storyset by Freepik

2022年の全国における梅毒感染者数が1万人を超え、過去最多となったというニュースが報じられました。

梅毒はほかの病気とよく似たさまざまな症状がみられるため、症状だけでは診断が難しい病気です。そのため血液検査も行われるのですが、この検査結果の見方がちょっとややこしいのです。

私は臨床検査技師として梅毒の検査も行っています。今回は梅毒の検査について解説します。

梅毒ってどんな病気?

梅毒は、「梅毒トレポネーマ(トレポネーマ・パリダム)」という細菌に感染することによって引き起こされる病気です。

梅毒トレポネーマは感染者の血液や粘液に含まれており、感染者の粘膜や皮膚と直接接触することでうつります。

性的接触によって感染するケースがほとんどです。また妊娠中の女性が梅毒に感染すると流産や死産、赤ちゃんが梅毒に感染した状態で生まれる先天梅毒などのリスクがあります。そのため妊婦健診では必ず梅毒の検査を行い、妊娠初期のうちに治療することで赤ちゃんへの感染を防いでいます。

どんな症状が出るの?

梅毒の症状

梅毒に感染すると、初期には梅毒トレポネーマが侵入した部位にしこりができることがあります

さらに梅毒トレポネーマが血液によって全身へ運ばれると、赤色の発疹が手のひらや体にあらわれます。

どちらの症状も痛みはないことが多く、治療しなくても自然に消えていきますが、梅毒が治ったわけではありません。

治療しないまま何年も放置し続けると、皮膚などにゴム腫と呼ばれる腫瘍が発生します。やがて神経にも影響を及ぼし(神経梅毒)、麻痺や認知症のような症状があらわれたり、心臓や血管などが障害を受け、死亡することもあります。

あの大ヒット漫画にも

社会現象を巻き起こした漫画「鬼滅の刃」でも、実は少しだけ梅毒に触れられています。


鬼滅の刃は大正時代を舞台に、鬼に襲われて家族を失い、妹を鬼にされてしまった少年・炭治郎が、妹を人に戻すために鬼と戦う…というストーリー。

私も毎週ジャンプで読んでいました。

アニメ化もされた遊郭編では、堕姫(だき)という鬼が登場します。堕姫は元は遊郭で生まれ育った梅という名前の少女で、名前は亡くなった母親の病名からつけられたとのこと。作中で明言はされていませんが、遊郭で梅がつく病気ですから、母親の病気は梅毒であったと考えられます。

また堕姫の兄である妓夫太郎(ぎゅうたろう)もギザギザの歯で体中に痣があるという容姿ですが、これは先天梅毒の特徴と一致します。

ほかにもドラマ化されて大ヒットした漫画「JIN−仁−」や「コウノドリ」でも梅毒が取り上げられています。

「JIN−仁−」は江戸時代にタイムスリップした医師が現代医学の知識で人々を救っていくという時代劇✕医療モノ。

重症の梅毒に苦しむ遊女を助けるために、江戸時代にはまだ発見されていなかった梅毒の治療薬であるペニシリンをつくるというエピソードがあります。


「コウノドリ」はジャズピアニストでもある産婦人科医・鴻鳥サクラを主人公に、妊娠や出産にかかわるさまざまなテーマを取り上げた作品。

梅毒をテーマにしたエピソードでは、「風俗店に行った夫から妊娠中の妻に梅毒が感染」、「妊婦健診を未受診で梅毒に感染している妊婦から先天梅毒の赤ちゃんが生まれる」という2つの話が描かれています。


急増する梅毒感染者

急増する梅毒

2022年の全国での梅毒感染者数は、12月の時点ですでに1万人を超えてしまいました。年間の感染者数が1万人を超えるのは、現在の調査方法になった1999年以来初めてのことです。

戦前は治療薬もなく、梅毒は不治の病として恐れられていました。ですがペニシリンという抗菌薬の普及により死亡率は劇的に低下し、1990年代には感染者数が年間1000人以下にまで減少しました。

そのため梅毒という病気自体を知らない、または「梅毒は過去の病気」というイメージがある、というかたも多いと思います。

しかし2013年に感染者数が年間1200人を超えたのを皮切りに、ここ数年で爆発的に増え続けています。

ちなみに感染者の年齢をみると、男性は20歳代から40歳代まで幅広く感染しているのに対し、女性は20歳代が突出して多いです。

感染者の年齢から、感染経路がなんとなく察せてしまいますね…。

梅毒の検査方法

血液検査

梅毒に感染しているかどうかを検査するには、皮膚や粘膜などの病変がある部位からにじみ出た浸出液を採取し、それを顕微鏡で観察したりPCRを行ったりして梅毒トレポネーマを検出する方法もあります。

しかし検査手順が煩雑なうえに検出率もそれほど高くないので、実際はあまり行われていません。

ちなみに梅毒トレポネーマを顕微鏡で見ると、らせん状をしているのが特徴です。

私も教科書で見たことがあるだけですが…。

梅毒の検査は血液検査がメインで行われています。検査項目にはおもにTPとRPRという2種類があります。

TP

感染すると、からだは梅毒トレポネーマを攻撃するために抗体をつくります。この梅毒トレポネーマに対する抗体を測定するのがTPです。

TPが規定値以上であれば陽性(+/プラス)、規定値以下であれば陰性(ー/マイナス)と判定されます。

つまりTPが陽性であれば、「梅毒トレポネーマに対する抗体が検出された=梅毒トレポネーマに感染したことがある」ということを意味しています。

しかしTPは一度陽性になると、治療を行って完治したあともずっと陽性のままであることが多いです。

そのため治療中の患者さんの治療効果を判断したり、過去に梅毒に感染した患者さんが再感染しているかどうかを判断したりするのには不向きです。

こうした理由からTPの結果だけで梅毒を診断するのではなく、次にお話するRPRと併用して判断しています。

RPR

梅毒に感染すると、炎症によりからだの中でカルジオリピンという物質が増加します。このカルジオリピンに対する抗体(抗カルジオリピン抗体)を測定するのがRPRです。

こちらもTPと同様に、規定値以上であれば陽性(+/プラス)、規定値以下であれば陰性(ー/マイナス)と判定されます。

梅毒トレポネーマがからだの中で活発に活動するほどRPRの数値が上がります。つまりRPRは、「現在からだの中で梅毒がどのくらい活動しているか」をあらわしています。

そのためRPRは梅毒の進行度や治療効果を判断するのに役立ちます。

一方でRPRは、梅毒に感染していなくても自己免疫疾患や妊娠などでも陽性になってしまうことがあります(これを生物学的偽陽性といいます)。

検査結果の見方

TPとRPRの結果から考えられることは、以下の表のとおりです。

梅毒の検査結果の見方

TP、RPRともに陽性であれぱ、梅毒と診断されます。

TP、RPRともに陰性であれば、梅毒に感染している可能性は低いです。しかしTPもRPRも、梅毒に感染してから検査で陽性になるまでに約4週間程度のタイムラグがあるため、「感染したばかりでまだ陽性になっていないだけ」という可能性もゼロではありません。

TPは治療後も陽性のままであることも珍しくありませんが、RPRは治療によって陰性になります。そのためTPが陽性、RPRが陰性の場合は、梅毒の治療後であると考えられます。

梅毒に感染すると、RPRが先に陽性になり、遅れてTPが陽性になります。そのためRPRが陽性でTPが陰性の場合、梅毒に感染したばかりである可能性があります。このほかに、梅毒以外の自己免疫疾患や妊娠などによってRPRだけ陽性になっていること(生物学的偽陽性)も考えられます。

このようにTPとRPRの結果からは、さまざまなパターンが考えられます。そのため血液検査の結果だけでなく、感染の機会があったか、しこりや発疹といった症状などがあるかどうかなどから、医師が総合的に判断します。

おわりに

先ほどもお話したとおり、梅毒は治療をしなくても症状がなくなっていきますが、これは治ったわけではありません。

自治体によっては、保健所で無料、匿名で梅毒の検査を実施しているところもあります。また梅毒は早期に治療すれば、飲み薬などで治すことも可能です。

これ以上の感染拡大を防ぎ、早期に治療を行うためにも、梅毒を疑う症状や感染に思い当たる節があれば、早めに検査や受診をすることをおすすめします。

また症状がなくなったからといって、自己判断で服薬や通院をやめずに、医師の指示に従うようにしてくださいね。

Next Post Previous Post
No Comment
Add Comment
comment url