医療従事者でなくてもできる!いざというときのために知っておきたい救命処置のやりかた
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心筋梗塞や危険な不整脈などが原因で、突然心臓が動かなくなって亡くなってしまうことを心臓突然死といいます。
日本では1年に約8万人ものかたが心臓突然死で亡くなっています。1日あたり200人、7分に1人という計算です。交通事故で亡くなるかたが年間約2600人ですから、心臓突然死で亡くなるかたの多さがわかると思います。
心臓が動かなくなると脳へ血液が送られなくなり、脳へのダメージが急速に進みます。すぐに救命処置が行われなければ、命が助かる確率は1分ごとに10%ずつ下がっていくといわれています。
ところが119番通報をしてから救急車が到着するまでにかかる時間は10分前後。そのため「救急車を呼んだから大丈夫」ではありません。救急車が来るのを待っていては遅く、救急車が来る前からその場にいる人が救命処置をする必要があります。
救命処置というと医療従事者でなければできないと思われるかもしれません。ですが救急車が到着するまでに必要な救命処置である「心臓マッサージ」と「電気ショック」は、医療従事者でなくても行うことが可能です。
病院でも、定期的にスタッフ向けの救命処置の講習が行われています。臨床検査技師が救急救命に直接関わることは少ないですが、当直中の救急外来や心カテ(心筋梗塞などの治療)中の急変に居合わせると、心臓マッサージをすることもありますよ。
今回は身近な人が倒れたときのために知っておきたい、医療従事者でなくてもできる救命処置のやりかたについてご紹介します。
安全を確保する
意外と見落とされがちですが、まずは倒れている人と救助する人、両方の安全を確保しましょう。
ちょっと極端な話になりますが、車の往来が激しい道路の真ん中で人が倒れていたとします。助けに行こうと慌てて道路に飛び出したら、車にひかれてしまうかもしれません。道路の真ん中で救命処置をするのも危険ですよね。
まずはまわりの安全を確認することが大切です。もし助けにいくことが難しい状況なら、119番通報をしてどうしたらいいか判断を仰いでください。
倒れている人の意識を確認する
倒れている人の両肩をたたきながら、「大丈夫ですか?」と声をかけ、反応(返事をする、動くなど)があるかを確認します。
このときのポイントは、「両肩をたたく」ことと、「大きな声で話しかける」ことです。
倒れた原因が脳梗塞など脳にある場合、麻痺が起きていることがあります。麻痺があると「片方の手足の感覚がない」といった可能性もあるので、両方の肩をたたく必要があるというわけです。
また特にお年寄りは耳の遠いかたが多いので、大きめの声で話しかけてください。
人を呼ぶ
声をかけても反応がない場合、大きな声で助けを呼びます。
というのも救命処置には、
- 救急車を呼ぶ人
- AEDを用意する人
- 心臓マッサージをする人(長時間やると疲れてしまうので、交代する人も必要)
などたくさんの人手が必要です。
救命処置は秒を争いますから、一人で救急車を呼んで、AEDを用意して、それから心臓マッサージを始めて…というのでは遅くなってしまいます。そのため人手を集めて、同時進行で行う必要があるというわけです。
もしまわりに自分しかいない場合は、まず119番通報をしてください。どうしたらいいか教えてもらえます。
119番通報とAEDの用意をする
集まってくれた人に、119番通報とAEDを持ってくるように頼みます。
このとき、「誰か救急車呼んで!」とか「誰かAEDを持ってきてください!」ではなく、
「〇〇さん、119番をお願いします!」
「そこの白いTシャツの男性のかた!AEDを持ってきてください!」
という感じで、「誰か」ではなくお願いする人を直接指名することがポイントです。
というのも「誰かお願いします」では、その場にいる人みんなが「誰かがやってくれるだろう」と考えてしまい、誰もやらないおそれがあるからです。
呼吸を確認する
119番とAEDをお願いしているあいだに、倒れている人の呼吸の確認を行います。
倒れた人を仰向けにして、胸やおなかが呼吸によって動いているかをチェックします。
このとき、「下顎を大きく動かしてゆっくりとあえぐような」とか、「しゃくりあげるように途切れ途切れの」などと表現される、普通ではない呼吸をしていることがあります。ですがこれは死戦期呼吸といって、亡くなる直前の人がする呼吸です。死戦期呼吸はちゃんとした呼吸ができていない状態なので、呼吸していないのと同じと判断してください。
ここで大切なのは、呼吸の確認に時間をかけすぎないことです。「呼吸しているのかな?どうなのかな?よくわからないな…」と悩んでいるうちに心臓マッサージをするのが遅くなってしまっては元も子もありません。
呼吸の確認にかける時間は10秒以内です。呼吸しているか判断が難しい場合は、すぐに心臓マッサージを始めましょう。
心臓マッサージが不要な状態(酔っぱらって寝ているだけなど)であれば、1回押しただけで嫌がるとか飛び起きるといった反応をしますから、心臓マッサージをやるかやらないかで迷う必要はありません。
心臓マッサージを行う
心臓マッサージで押す場所は、胸の真ん中です。胸の真ん中を触ると、硬い骨(胸骨)があるのがわかると思います。その胸骨の下半分あたりです。位置がわかりづらいときは、左右の乳首の高さで胸の真ん中あたりを目安にしてください。
両手を重ね、胸が5センチ以上沈むまで手のひら全体でしっかり押します。押したらすぐに胸がもとの高さに戻るまでゆるめます。またすぐに押して、ゆるめて、また押して…をくり返します。
1分間に100回以上のペースで押しましょう。「強く、早く、絶え間なく」がポイントです。
1分間に100回以上と言われてもピンとこないと思います。そんなときは頭の中で曲を流して、そのリズムに合わせるといいですよ。
オススメは童謡の「うさぎとかめ」と、「ドラえもんのうた」(大山ドラ版「こんなこといいな」のほう)です。
このとき肘を曲げてしまうと、しっかり押すことができません。患者さんの体に対して垂直になるように、肘をまっすぐ伸ばして押します。
「痛いかな…骨が折れたらどうしよう…」と心配になりますが、心臓マッサージは動かない心臓の代わりに外から心臓を押して血液を送り出すために行うものです。優しく押すのでは意味がありません。自分の全体重をかけるくらいの強さでちょうどいいです。
人工呼吸は無理にする必要はない
救命処置というと、心臓マッサージとセットで人工呼吸も思い浮かぶかと思いますが、人工呼吸は無理にする必要はありません。
というのも、人工呼吸をするには患者さんのあごを持ち上げ、頭を後ろに反らせて気道を確保し、鼻をつまみながら息がもれないように息を吹き込む…といった手順が必要です。
医療従事者ではない人がいきなりやるには、なかなかハードルが高いですよね。
また口と口をつける人工呼吸では、どちらかが感染症にかかっていた場合、うつってしまうリスクもあります。実際に病院では、口と口ではなく上の写真のようなバッグバルブマスクという人工呼吸用の器具を使っています。
どうにか人工呼吸をやろうとして手間取ってしまうよりは、心臓マッサージを絶え間なく続けるほうが効果的です。
AEDを使う
AEDとは?
心臓は弱い電気刺激によって動いています。正常な心臓では洞結節というところから電気信号が規則正しく発生するので、心臓は一定のリズムで動きます。
ところが心室細動などの危険な不整脈では、心臓のあちこちでデタラメな電気信号が発生し、心臓がけいれんしたような状態になってしまいます。
AEDで心臓に大きな電気ショックを与えると、心臓の細胞がリセットされたような状態になり、本来の電気刺激を出す役割である洞結節からの刺激で心臓が動くようになる可能性があります。
ドラマとかでよくある「パニック状態になった人にビンタして冷静さを取り戻させる」を心臓にやるみたいなイメージです。
AEDの使いかた
AEDの電源を入れる
「AEDなんて使ったことないけど大丈夫かな…」と思うかもしれませんが、AEDの電源を入れると音声で使いかたを教えてくれますし、ショックが必要かどうかの判断もAEDが行います。
「ショックがいらない人にしてしまった…」ということはありませんから、心配せず落ち着いて使ってくださいね。
電極パッドを貼る
2枚の電極パッドを患者さんに貼ります。貼る位置はAEDにも書いてありますが、だいたい右の鎖骨の下と左のわき腹あたりです。パッドを貼っているあいだも心臓マッサージを止めてはいけません。
しっかり皮膚に密着するように貼りましょう。汗などで体がぬれていればふき取り、シップなどが貼られていたらはがしてください。ペースメーカーが埋め込まれている場合はペースメーカーを避けて貼ります(ペースメーカーがポコッと浮き出ているので、見ればわかります)。胸毛が多い人用にカミソリが用意されているAEDもあります。
AEDが心電図を解析する
パッドを貼ると、AEDが自動で心電図の解析をはじめます。AEDから「心電図を解析しています」などの音声案内があるので、解析中は心臓マッサージを中断して患者さんから離れます。
電気ショックを行う
心電図の解析の結果、AEDがショックが必要と判断したら「電気ショックが必要です」と音声案内があり、充電が始まります。充電が完了すると「ショックボタンを押してください」と案内があるので、患者さんから離れ、ショックボタンを押します。
電気ショックを行うときに患者さんに触れていると、その人も感電してしまいます。まわりの人に「離れて!」と声をかけ、誰も患者さんに触れていないことを確認してからショックボタンを押してください。
電気ショックが終わると、AEDから「ショックが終わりました。胸骨圧迫(心臓マッサージ)を再開してください」と案内があるので、すぐに心臓マッサージを再開します。
心電図の解析の結果、「電気ショックは不要です」と案内される場合もあります。ですが患者さんの反応がなかったり、呼吸をしていなかったりするのであれば、心臓マッサージを続けてください。
この心臓マッサージと電気ショックを、救急車が到着するまで続けます。
救急車が到着したら、
- 患者さんの名前や年齢、持病や普段飲んでいるお薬など
- 倒れたときの状況(突然胸を押さえて倒れた、〇時ごろ様子を見に行ったら倒れていた、など)
- これまでに行った処置(心臓マッサージを〇分くらい続けている、電気ショックを〇回かけた、など)
などをわかる範囲で救急隊に伝えてください。
おわりに
目の前で突然人が倒れたら、ましてやそれが自分の身近な人だったら、パニックになってしまうのは当たり前です。
そのうえ医療従事者ではないかたが心臓マッサージをしたりAEDを使ったりというのは、なかなか勇気がいることだと思います。
ですが救急車が来るのを待っていては、命が助かる可能性は極めて低くなってしまいます。家族や友達が目の前で倒れたとき、大切な人の命を助けるためにも、この記事で救命処置のやりかたを頭の片隅にでも覚えておいていただけたら幸いです。