本当に合格率100%?医療系学校の国家試験合格率が高いワケ

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医療系国家試験の合格率が高いワケ

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看護師や診療放射線技師、臨床検査技師などの医療職に就くには、養成コースがある大学や専門学校で勉強し、国家試験に合格する必要があります。

医療職を目指して進学する学校を探している高校生の中には、「国家試験の合格率が高い学校に入れば安心」と考えているかたもいるのではないでしょうか。

学校ごとの国家試験の合格率は、ネットで「〇〇(職種名) 国家試験合格率 学校別」などで検索すれば出てきます。ホームページやパンフレットなどで「合格率〇〇%!」と謳っている学校もありますね。

ですがその合格率は、はたして本当の数値なのでしょうか?

実は高い国家試験の合格率には、ある秘密が隠されているケースがあります。現役の臨床検査技師がその秘密について解説します。

高い合格率の秘密「足切り」

足切り

医療系の学校では、国家試験の合格率を高く見せるために「足切り」が行われていることは珍しくありません。

足切りとは、「一定の成績に満たない学生には国家試験を受けさせない」ということです。具体的には、国家試験前に卒業試験を行い、そこで合格点がとれない学生は国家試験の受験をさせてもらえない、という話をよく聞きます。

つまり「確実に合格できる力がある学生にだけ国家試験を受験させる」わけです。

たとえばの話ですが、ある学校では学生が100人いて、そのうち卒業試験に合格したのが60人だったとします。卒業試験は国家試験より難易度が高めに設定されていることが多いため、これをクリアした学生は国家試験も合格できる可能性が高いと考えられます。

ではその卒業試験を突破した60人だけが国家試験を受験して全員合格した場合、この学校の合格率は何%になると思いますか?

「学生が本来は100人いて、合格したのが60人だから、合格率は60%」だと思いますよね?

実際は違います。学校は「60人受験して60人合格したから合格率は100%」と公表するのです。

足切りとは

実際に公表されている合格率のデータを見ても、「受験者数」と「合格者数」は書かれていますが、実際の学生数、つまり「足切りされて国家試験を受験できなかった学生」がどれくらいいるのかは公表されていません。

足切りはすべての学校で行われているわけではありません。しかし極端な例え話になりますが、同じ100人の学生がいるA学校とB学校があったとして、

足切りと合格率

  • A学校は足切りがあり、国家試験を受験したのは60人→60人合格したので合格率は100%
  • B学校は足切りせず、100人全員が国家試験を受験して、90人全員合格したので合格率90%

なんてことがあり得るわけです。

なぜ足切りが行われるのか

足切りが行われる理由

足切りが行われる一番の理由は、もちろん国家試験の合格率を高くするためです。

私立大学や専門学校は、国家試験の合格率をかなり重視しています。当然ですが合格率が低い学校より高い学校のほうが入学希望者が増えますからね。学生の確保は学校の経営にあたって重要なポイントです。

それゆえに、合格する見込みが少ない学生まで国家試験を受けると不合格になって合格率が下がってしまうため、足切りが行われるというわけです。

一方で国立大学や難関大学などは、合格率を宣伝文句にしなくても入学希望者が集まります。また学生が卒業後に、研究職など必ずしも臨床検査技師の資格が必要ない仕事に就くこともあります。

そのためこうした学校は、合格率をそれほど重視しておらず、足切りを行わないことが多いです。難関大学であれば、足切りをしなくても合格できる学力がある学生が多い、という理由もありますね。

ただしこれはあくまでもこのような傾向があるというだけで、すべての私立大学や専門学校が足切りを行っていて、国立大学や難関大学が足切りをしていないということではありませんのでご注意ください。

また学生に緊張感をもたせるためでもあります。

足切りがないと、受験勉強を怠けてしまったり、成績が合格ラインに届いていないのに「イチかバチか、運がよければ受かるかな」なんて考えたりする学生が出てくるかもしれません。

しかし足切りされてしまえば受験自体ができないので、今まで学校で3年間または4年間勉強してきたのに、その時点で資格がとれないことが確定してしまいます。それだけは避けたいと学生に真剣に勉強してもらうため、という理由もあります。

足切りを見分ける方法

足切りしている学校を確実に見分ける方法はありません。ですが「この学校は足切りがありそう」と予想することはできます。

学校には、学部や学科ごとに受け入れる学生の定員があります。定員は学校のホームページやパンフレットなどで確認できます。

この定員数より実際の国家試験受験者数が大幅に少なく、かつ合格率が高い場合、足切りが行われている可能性が高いです。

たとえば以下のような感じです。

足切りの見分けかた

  • 定員が100人で受験者数が100人…足切りの可能性は低い
  • 定員が100人なのに受験者数が50人で、50人全員合格したので合格率100%…足切りの可能性がある
  • 定員が100人なのに受験者数が50人で、20人合格したので合格率40%…足切りの可能性は低い

あくまで可能性の話であって、絶対に足切りが行われているというわけではありません。受験者数が少ないのは定員割れしていてもとから学生数が少なかったり、足切り以外の学生側の理由で退学者がいたりしたということも考えられますし、合格率が高いのは学生のレベルが高かったり、学校の試験対策が手厚かったりするのかもしれませんからね。

国家試験対策が手厚いところも多い

国家試験対策

足切りを行う学校は合格率を上げたいわけですから、国家試験対策が手厚いところも多いです。

国家試験対策の問題集を作成して学生に配ったり、小テストや試験対策講座を行ったりなど、学生が試験勉強に取り組めるようにサポートしています。

一方で国立大学や難関大学などは、合格率をそれほど重視していないこと、学校側が手厚くサポートしなくても自力で合格できる学生が多いことなどから、国家試験対策にあまり力を入れていないところもあります。放任主義といいますか、「国家試験?各自でがんばってね~」という感じです。

合格には自分自身の努力が必須

「足切りなしで合格率が高い学校に入りたい」と考えている高校生もいると思います。

ですが合格率100%の学校に入ったからといって、自分自身が勉強しなければ合格することはできません。もし足切りがある学校に入っても、足切りされないように勉強すれば合格できるでしょう。

足切りはないが放任主義の学校だと、勉強をついついサボってしまう人もいるでしょうし、足切りはあるけど試験対策が手厚い学校で成績が伸びていく人もいるかもしれません。

結局のところ、合格には自分自身の努力が必要だというわけです。これから学校選びをするかたは、合格率の高さだけにとらわれず、カリキュラムや学校の特色などを調べて、自分に合った学校を探してくださいね。

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