暑い季節は要注意!食中毒を引き起こす細菌やウイルスの話

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食中毒を引き起こす細菌やウイルスの話

この記事を書いているのは、梅雨が明けて本格的な夏がやってきたというころです。

そんな季節に気になるのが食中毒。

ジメジメ、ムシムシしていると、やはり食中毒の原因となる菌が増えやすくなってしまいます。

そこで今回の記事では、食中毒を引き起こす代表的な細菌やウイルスについてお話しします。

そもそも食中毒とは?

食中毒

細菌やウイルスがついた食品を口にしてしまうと、からだの中で細菌やウイルスが増えたり、毒素を出したりします。これにより吐き気や下痢、腹痛、発熱などの症状があらわれる病気のことを食中毒といいます。

ほかにも毒キノコなど、食べものに含まれる毒物を食べたことで症状があらわれるものも食中毒に含まれますが、この記事では細菌やウイルスによる食中毒をおもにご紹介します。

食中毒の原因となるおもな細菌やウイルス

腸管出血性大腸菌

O157

大腸菌は健康な人の腸にも存在していますが、そのほとんどは無害です。しかし中には食中毒を起こす種類があり、病原性大腸菌と呼ばれています。

病原性大腸菌の中でも一番有名なのが、腸管出血性大腸菌O157ではないでしょうか。

O157は「ベロ毒素」と呼ばれる非常に強い毒素をつくります。このベロ毒素が腸管をただれさせるため、激しい腹痛や出血をともなう下痢などの症状があらわれます。

さらにベロ毒素が赤血球を壊してしまうことにより、腎臓がダメージを受けて溶血性尿毒症症候群という病気を引き起こし、最悪の場合死亡することもあります。

加熱が不十分な肉や野菜などが原因となります。また一般的な食中毒の場合、およそ100万個の細菌が体内に入らないと発症しませんが、O157は100〜1,000個程度の少ない数でも発症します。

ですが熱に弱く、アルコールなどでも簡単に死滅するので、加熱や消毒をきちんと行っていれば予防が可能です。

ちなみに大腸菌は菌の表面にあるO抗原やH抗原などによって分類されており、O157はO抗原で157番目に発見されたのでO157と名づけられました。

カンピロバクター

カンピロバクター

カンピロバクターは鶏や牛、豚などの家畜の腸に存在する細菌です。

そのため食肉を加工する際に、どうしてもカンピロバクターが肉の表面に付着してしまうので、これらの肉を加熱が不十分なまま食べると感染します。

特に鶏の刺身やタタキなどから感染するケースが多いです。カンピロバクターも数百個程度の少ない菌でも発症するため、たとえ新鮮な鶏肉であっても、加熱が不十分であれば感染のリスクは高いです。

感染すると、腹痛や下痢、発熱などの症状があらわれます。まれに手足のしびれや顔面まひ、呼吸困難などが起こるギラン・バレー症候群という病気を引き起こし、後遺症が残ることもあります。

ですがカンピロバクターも加熱や消毒といった一般的な対策で予防することが可能です。生やしっかり加熱していない鶏肉は食べないようにしましょう。

ちなみにカンピロバクターは、顕微鏡で見るとらせん状のかたちをしているのが特徴です。

サルモネラ

サルモネラ

サルモネラは鶏や牛、豚などの家畜など、さまざまな動物の体内に存在している細菌です。

特に加熱不足の卵(生卵やオムレツなど)から感染するケースが多いです。感染すると、おう吐や下痢、腹痛などの症状があらわれます。

サルモネラは熱に弱いので、食品をしっかり加熱すれば予防できます。

黄色ブドウ球菌

黄色ブドウ球菌

黄色ブドウ球菌は、健康な人の皮膚や鼻の中にも存在している細菌です。

黄色いコロニー(菌のかたまり)をつくり、顕微鏡で見ると丸い菌が集まってブドウの房みたいに見えるので、この名前がついています。

特に傷口に多く存在しているので、傷があったり顔のニキビを触ったりした手で食べものを触ると、黄色ブドウ球菌が付着するリスクが高くなります。そのためおにぎりやお弁当など、加熱後に手で触る料理が原因となることが多いです。

黄色ブドウ球菌自体は熱に弱いですが、この菌が産生するエンテロトキシンという毒素は熱に強いという特徴があります。

そのため一度毒素がつくられてしまうと、食材を加熱しても黄色ブドウ球菌は死滅しますがエンテロトキシンは残ってしまい、食中毒を引き起こします。

2000年に雪印乳業の低脂肪乳などが原因で1万人以上の感染者を出した食中毒事件がありましたが、これも黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンが原因でした。

腸炎ビブリオ

腸炎ビブリオ

腸炎ビブリオは塩分濃度が高いところで増える特徴があり、海水に多く存在しています。

そのため海でとれる魚介類に腸炎ビブリオが付着していることがあります。しかし腸炎ビブリオは真水と熱に弱く、10℃以下の低温では発育しないので、魚介類は低温で保存し、真水でよく洗ったり、しっかり加熱をしたりすることで予防できます。

また販売されている魚介類は、洗浄や低温保存などの品質管理が徹底されるようになったため、腸炎ビブリオによる食中毒の発生件数は減少してきています。

ボツリヌス菌

ボツリヌス菌

ボツリヌス菌は土の中などに広く存在している細菌で、神経を麻痺させるボツリヌス毒素という毒素をつくります。

ボツリヌス毒素を食べものと一緒に口にしてしまうと、吐き気やおう吐などのほかに、全身に力が入らない、食べものを飲みこめない、呼吸がうまくできないといった症状を引き起こし、死亡することもあります。

さらにボツリヌス菌は「芽胞(がほう)」をつくるという特徴があります。芽胞は菌にとってのバリアのようなもので、菌にとって住みにくい環境になると芽胞をつくって冬眠のような状態になり、やがて菌が好む環境になると、冬眠から目覚めて増殖をはじめます。

芽胞をつくると熱や乾燥に非常に強くなるため、通常の加熱では死滅しません(ボツリヌス菌の芽胞を死滅させるには、120℃で4分以上加熱する必要があるとされています)。

またボツリヌス菌は空気(酸素)が少ないところで増殖するため、缶詰やレトルトパウチなどの中で増えやすいです。

ボツリヌス菌による食中毒の原因として広く知られているのがハチミツです。ハチミツの中は空気が少ないため、ボツリヌス菌が増えやすい環境になっています。

大人であればハチミツの中のボツリヌス菌が体内に入っても、腸内細菌がボツリヌス菌に勝つので食中毒をおこすことはありません。しかし1歳未満の赤ちゃんは腸内環境がまだ整っていないため、ボツリヌス菌が増えて毒素をつくってしまうおそれがあります。

2017年には、赤ちゃんにハチミツを与えたことによる乳児ボツリヌス症の死亡事故も起きています。

1歳未満の赤ちゃんにはハチミツをあげないこと、大人でも缶詰やレトルト食品は適切に保存し、食品はしっかり加熱して食べることが大切です。

ウェルシュ菌

ウェルシュ菌

ウェルシュ菌は土の中など自然界に広く存在し、健康な人や動物の腸にもいる菌です。

ウェルシュ菌は牛や鶏、魚などの腸にも存在しており、これらの肉にはウェルシュ菌が付着していることがあります。また100℃で1〜6時間加熱しても耐える非常に強い芽胞をつくるため、通常の加熱では死滅しません。

そのためウェルシュ菌による食中毒の原因で多いのが、カレーやシチュー、スープなど、大鍋でつくる煮込み料理です。

ウェルシュ菌は空気が少ない環境で増殖するため、カレーなどドロッとした料理は鍋の中の空気が少なくなり、ウェルシュ菌が増殖しやすい環境になってしまうのです。

またウェルシュ菌はエンテロトキシンという毒素をつくり、これが食中毒の原因になります。

ですがウェルシュ菌のエンテロトキシンは、しっかり加熱すれば壊すことができます。またウェルシュ菌による食中毒は、菌がある程度たくさんいないと発症しません。

そのため予防のためには、しっかり加熱して芽胞をつくっていないウェルシュ菌やエンテロトキシンを壊すことに加えて、カレーなどをよくかき混ぜて空気を入れ、常温で長時間放置せずにウェルシュ菌を増やさないことが大切です。

2日目のカレーはおいしいですが、常温で放置は危険です!

セレウス菌

セレウス菌もボツリヌス菌やウェルシュ菌と同じく、芽胞をつくり空気が少ないところで増殖するという特徴があります。

セレウリドという毒素をつくり、これがおう吐を引き起こします。重症化することはあまりありません。

セレウス菌は土の中など自然界に広く存在しているため、米や小麦などに付着している可能性があります。そのためチャーハンやピラフ、オムライスといったお米を使った料理や、焼きそばやスパゲティなどの麺料理が原因となるケースが多いです。

セレウス菌も菌がある程度たくさんいないと発症しません。調理済みの食品を常温で放置せず、すぐに食べきるか冷蔵庫で保管して、菌を増やさないようにしましょう。

ちなみにセレウス菌の学名はBacillus cereus(バチルス・セレウス)、納豆菌はBacillus subtilis var. natto(バチルス・サブチリス・ナットー)といいます。食中毒の原因となるセレウス菌と、おいしい納豆をつくる納豆菌は、実は同じバチルス属というグループなのです。

リステリア菌

リステリア菌は川の水や動物の腸などに存在する細菌です。

4℃以下の低温や、塩分濃度が高いところでも増殖できるという特徴があります。そのため生ハムやナチュラルチーズ、スモークサーモンなど、冷蔵庫に長期保存され、加熱されずに食べられるものが食中毒の原因になりやすいです。

健康な人ならたくさんのリステリア菌が体内に入らないと発症しませんが、お年寄りや免疫が低下している人は注意が必要です。特に妊婦さんが感染すると、お腹の赤ちゃんに影響が出るおそれがあります。

ノロウイルス

ノロウイルス

食中毒というと夏のイメージですが、ノロウイルスによる食中毒は冬に多いです。

ノロウイルスはカキなどの二枚貝に付着していることが多く、生や加熱が不十分なカキなどを食べることによって感染します。

また感染力が非常に強く、たった数個のウイルスでも感染する可能性があります。おまけにアルコール消毒も効きづらいです。

さらにウイルスに感染している人の便や吐いたものにも大量のウイルスが含まれているため、トイレや吐いたものを片づけるときに、人から人へ感染するおそれがあります。

ノロウイルスが体内に入ると、腸の中で増殖し、腹痛や下痢、おう吐などの症状を引き起こします。

加熱用のカキはしっかり加熱してから食べる、感染した人の便や吐いたものを片づけるときは手袋やマスクをして、塩素系漂白剤で消毒することが、予防には大切です。

アニサキス

アニサキス

アニサキスは細菌でもウイルスでもなく、寄生虫の一種です。2〜3センチくらいの長さの、太めの糸のような見た目をしています。

アニサキスはサバ、アジ、サンマ、サケ、カツオ、イワシなどの魚介類に寄生しています。

魚介類についているアニサキスを生きたまま食べてしまうと、アニサキスが胃壁や腸壁に侵入し、激しい腹痛を引き起こします。

腹痛の原因がアニサキスと思われる場合、胃カメラ検査を行うと、アニサキスを発見、摘出できることがあります。

アニサキスを死滅させるには、60度で1時間以上加熱するか、マイナス20度以下で24時間以上冷凍する必要があります。酢やワサビ、醤油、塩漬けなどでは死にません。

アニサキスの原因として有名なのがサバ寿司ですね。臨床検査技師はサバ寿司と聞くと、まっさきにアニサキスが思い浮かびます。

魚介類はしっかり加熱してから食べるようにしましょう。またアニサキスは目で見えるので、魚介類を生で食べる場合はアニサキスがいないか目でよく見ることも大切です。

アニサキスは魚の内臓に寄生していますが、魚が死ぬと筋肉へと移動します。そのため魚の内臓を生で食べるのは避け、アニサキスが筋肉へ移動する前の新鮮なうちに内臓を取り除くことで、食中毒のリスクを減らすことができます。

食中毒を防ぐための3原則

これまでお話ししたように、食中毒を引き起こす細菌やウイルスには、毒素や芽胞をつくったり、増殖しやすい温度や環境が異なったりと、それぞれ特徴があります。

ですが食中毒予防のための対策は、基本的には「つけない」、「やっつける」、「増やさない」の3つです。

つけない

手洗い

健康な人の手にも多くの菌が存在しています。そのため調理の際にはしっかり手を洗い、食品に菌をつけないことが大切です。

野菜やくだものには土などの汚れがついていることもあるので、調理の前にしっかり洗いましょう。

ただし肉は洗わないでください。肉を水洗いすると、肉についている菌が水と一緒にシンクまわりに飛び散り、ほかの食材や調理器具などに菌が付着するおそれがあるからです。

また生肉を調理した包丁やまな板などにも菌がついています。生肉は一番最後に調理する、野菜用と肉用で調理器具を分ける、生肉を取り扱った手や調理器具をしっかり洗うといった方法で、菌を広げないようにご注意ください。

増やさない

冷蔵庫で保存

菌は時間の経過とともに増えていきます。また多くの菌は20〜50℃、特に人間の体温くらいの温度で活発に増殖します。

そのため食材を購入したら、なるべく早く冷蔵庫や冷凍庫に入れ、表示されている保存方法を守って消費期限内に食べるようにしましょう。

調理した食品も常温に放置せず、早く食べきるようにします。作りおきなどすぐに食べない場合は、すぐに温度が下がるように小分けにして冷蔵庫や冷凍庫で保存を。

解凍するときも、自然解凍だと解凍までに時間がかかり、菌が増殖するおそれがあるため、電子レンジや流水を使って短時間で解凍しましょう。

また冷蔵庫の中でも菌はゆっくりですが増えていくので、「冷蔵庫に入れておけば絶対安全」と考えず、早めに食べるようにしてくださいね。

やっつける

加熱調理

多くの菌は加熱すれば死滅するので、食材の中心が75℃、1分以上を目安に加熱しましょう。

また使用した調理器具や食器洗い用のスポンジなどは、定期的に熱湯や塩素系漂白剤で消毒しておくと安心です。

おわりに

食中毒の原因となる細菌やウイルスについてご紹介しました。

夏は食中毒の危険性が高くなります。菌をつけない、ふやさない、やっつけるようにして、食中毒を予防してくださいね。

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