たくさん採血したら貧血にならない?何本も採血が必要な理由
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私は病院で、血液検査や心電図などの検査を行う臨床検査技師という仕事をしています。
臨床検査技師の業務のひとつとして採血があります。私も患者さんの採血をしていますが、そのときに患者さんから一番言われることが、
「そんなにたくさん血をとって大丈夫?」
「こんなに採血したら血がなくなっちゃうよ〜」
です。
そこで今回はなぜ何本も採血が必要なのか、たくさん採血して貧血にならないのかについてまとめてみました。
何本も採血が必要な理由
採血するときに何本も試験管を出されたら、「そんなに採血するの?1本だけじゃだめなの?」と思ってしまいますよね。
採血する側としても1本だけのほうがいいのですが、残念ながらそうもいきません。
採血管はパッと見どれも同じに見えますが、実はさまざまな種類があり、検査項目に応じて使い分けられているのです。
採血管の種類
採血管には大きく分けて、「血液が固まらないようにする採血管」と「血液を固める採血管」があります。
血液が固まらないようにする採血管
血液には、出血したときに止血できるように、血管の外に出ると固まるはたらきがあります(これを「凝固」といいます)。
ですが血液に含まれる細胞の数や形、血液の固まりやすさなどを調べる場合、血液が固まってしまった状態では正確な検査ができません。
そのためこれらの検査を行うときは、血液が固まらないようにする「抗凝固剤」という薬剤が入っている採血管を使います。
また抗凝固剤には、以下のようにさまざまな種類があり、検査項目によって適したものを使っています。
EDTA
白血球や赤血球、血小板など血液中の細胞の数や形を調べるときに使われる抗凝固剤です。
血液が固まるときにはカルシウムが必要になるのですが、EDTAはカルシウムを除去することで血液が固まるのを防ぎます。
クエン酸ナトリウム
EDTAと同様に、カルシウムを除去することで血液が固まるのを防ぐ抗凝固剤です。
凝固のはたらきを調べる検査に使われています。血液をサラサラにするお薬の効き目や、血管の中に血のかたまり(血栓)ができていないかなどを調べる検査です。
凝固検査では血液の固まりやすさを測定するため、抗凝固剤のはたらきを計算に入れる必要があります。そのため血液とクエン酸ナトリウムを9:1の割合で混ぜるという決まりになっており、採血管に決められた量の血液を採血すれば、この割合で混ぜられるようになっています。
フッ化ナトリウム
フッ化ナトリウムもカルシウムを除去するタイプの抗凝固剤です。血糖値を測定するときに使われています。
血糖値とは血液中に含まれるブドウ糖(グルコース)の量のことです。血液中のブドウ糖は採血後少しずつ減っていってしまいますが、フッ化ナトリウムは血液中のブドウ糖が減っていくのを防ぐはたらきがあるため、採血管の中でもからだの中と同じブドウ糖の量を保ったまま測定することができます。
ヘパリン
血液が固まるには、凝固因子というものがはたらいています。ヘパリンはこの凝固因子のはたらきをおさえることで、血液が固まらないようにしています。
EDTAやクエン酸ナトリウム、フッ化ナトリウムなどのカルシウムを除去するタイプの抗凝固剤は、ナトリウムやカリウム、コレステロールなどを測定するときに使用する薬品のはたらきを邪魔してしまうため、これらの項目を検査するときはヘパリンが使われます。
血液を固める採血管
血液中の糖質や脂質、タンパク質、酵素、電解質などを測定する検査では、抗凝固剤が検査結果に影響をおよぼすことがあります。
その場合は抗凝固剤は使わずに、血液を固めてから測定します。固まった血液を遠心分離機にかけると、赤血球や白血球などの細胞成分と上澄みにわかれます。この上澄み(血清)を検査に使います。
採血管によっては、すぐ検査できるように血液が早く固まるようにする薬剤(凝固促進剤)が入っているものもあります。
いろいろある採血管
このように検査する内容によってそれぞれ適した採血管を使うため、何本も採血する必要があるわけです。
今度採血するときに、採血管をよく見てみてください。採血管の中に液体や粉が入っているのが見えるかと思います。これらが抗凝固剤や凝固促進剤です。
また採血管は、キャップの色もさまざまです。これはキャップの色で、中にどんな薬剤が入っている採血管なのかわかりやすくするためです。
採血管のメーカーにもよりますが、EDTAは紫色、クエン酸ナトリウムは水色や黒、フッ化ナトリウムは灰色、ヘパリンは緑色、凝固促進剤は黄色などで色分けされています。
たくさん採血して大丈夫?
実際の採血量
検査する内容によって必要な試験管の本数も違ってきますが、採血のときに5本も6本も採血管が出てきたら、「それ全部採血するの?大丈夫なの?」と心配になりますよね。
使用している採血管は病院によって異なりますが、たいてい採血管に入れる血液の量は1本あたり2〜6mL程度です。
たとえば私が働く病院で、採血管の本数が多くなりがちな手術前の患者さんや救急外来の患者さんの採血量をみてみますと、こんな感じです。
- 血算(赤血球や白血球の数や形など)…2mL
- 凝固(血液の固まりやすさ)…2mL
- 生化学(糖や脂質など)…5mL
- 免疫(肝炎ウイルスや腫瘍マーカーなど)…3mL
- 血糖値…2mL
- 血液型…3mL
以上で採血量は採血管6本、合計17mLです。
採血するときに採血管が6本も出てきたらびっくりしてしまうかもしれませんが、全部あわせても17mLです。料理に使う計量スプーンの大さじ1杯が15mLなので、それとほぼ同じくらいの量ですね。
ちなみに献血では200mLまたは400mLの血液を抜きます。そう考えるとそんなに多くないなと思うのではないでしょうか。
どのくらい血を失うと危険?
ひとのからだには、体重の約1/13程度、体重1kgあたり約70mLの血液が流れています。体重60kgの人なら約4200mLですね。
一般的に、全体の1/3の血液を失うと命の危険があるとされています。体重60kgの人なら約1400mLです。
採血で血が足りなくなってしまうほど血をとることはありません。ご安心くださいね。
採血で気持ち悪くなるのは貧血?
採血すると気持ち悪くなるかたがいらっしゃいます。「血を抜いたから貧血になった」と思われているかもしれませんが、これは貧血ではありません。
先ほどもお話ししましたが、採血で貧血になるほど血を抜くことはありません。採血で気持ち悪くなるのは、血管迷走神経反射というものです。
血管迷走神経反射とは、採血の痛みや恐怖などのストレスが原因で、迷走神経という神経が刺激されてしまい、血圧が下がったり脈がゆっくりになったりすることです。それにより脳への血流も一時的に減少してしまい、気持ち悪くなったり気を失ったりしてしまうのです。
血管迷走神経反射を起こしても、安静にしていればよくなりますし、治療も特に必要ありません。
おわりに
採血って、できればやりたくないですよね。その上たくさん採血管が出てきたり、採血して気持ち悪くなったりしたらなおさらです。
ですが患者さんのからだの状態を知るために必要な検査ですから、この記事を読んで少しでも不安をやわらげてもらえたら嬉しいです。