外れたら病気?血液検査の「基準範囲」とは
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健康診断や人間ドックなどで行う血液検査の結果を見ると、自分の検査結果の横に「基準範囲」というものが書かれています。
その範囲から外れていると、LやH、矢印、※などのマークがついているので、「この基準範囲から外れていると病気なの?」と心配になりますよね。
そこで現役の臨床検査技師が、「基準範囲とは何か」についてお話します。
血液検査でどんなことがわかるのか気になるかたは、こちらの記事もどうぞ。
基準範囲とは?
まずは基準範囲の決めかたからお話しします。基準範囲ってどうやって決めているかご存知ですか?
基準範囲を決めるためには、まず健康な人をたくさん集めます。
具体的には次のような人のことですね。
- がんなどの病気がない
- 定期的に薬を飲んでいない
- 高度の肥満ではない
- タバコやお酒をやらない
- 妊娠していない(妊娠中はさまざまな検査値が変動しやすいため)
- 特に具合が悪いといった症状もない
そうした健康な人の検査を行い、「測定値が低かった2.5%の人と、高かった2.5%の人を除いた、残りの95%の人が含まれる範囲」を基準範囲としています。
実際に検査してみると、健康な人でも測定値が極端に高かったり低かったりする人がいます。そうした数値を除いた「健康とされる人の大多数の人が当てはまる範囲」が基準範囲ということになりますね。
ちなみに、実は基準範囲は全国一律で決まっているわけではありません。医療機関や検査会社によって使用している検査機器や薬品、検査方法が異なるため、大幅に違うことはありませんが、それぞれ微妙に基準範囲が違います。
基準範囲から外れていたら病気なの?
結論から言いますと、「基準範囲から外れていたら病気とは言い切れないが、基準範囲に入っているから病気ではないとも言えない」、という感じです。
結局どっちなの?というツッコミが聞こえてきそうですが…。
私は臨床検査技師として血液検査などをやっていますが、実際に
「心肺停止(脈も呼吸も止まった状態)で運ばれてきた患者さんの血液検査の結果が全部基準範囲内だった」とか、
「毎回人間ドックで血液検査が基準範囲から外れていると言われている人が、精密検査をするとどこにも異常がなかった」
というケースに遭遇したこともあります。
ここで基準範囲の決めかたを思い出してください。「測定値が低い2.5%と高い2.5%を除いた95%が含まれる範囲」が基準範囲ですよね?つまり健康とされる人でも5%は基準範囲から外れるわけです。
一概に「基準範囲内=健康」、「基準範囲外=病気」とは言い切れないのです。
じゃあ何のために基準範囲なんてものがあるのかといいますと、たとえばいきなり検査結果の数値だけポンと見せられても、これが良いのか悪いのかイメージしづらいですよね。
そこで役立つのが基準範囲です。自分の結果が基準範囲と比べてどのあたりに位置しているかをみることで、健康かどうかの目安になります。
あれこれ書きましたが、やはり基準範囲から大幅に外れている人は何かしらの病気を抱えていることが多いですし。
ちなみに以前は基準範囲ではなく「正常範囲」という言葉が使われていました。ですが「正常」という言葉が、外れたら病気であるという誤解を招きやすいため、最近では使われなくなっています。
ほかにもあるいろんな「基準」
基準範囲から外れているからといって病気とは言い切れないため、基準範囲は病気の診断には使われていません。
ではどうやって検査値を病気の診断に役立てるかというと、「臨床判断値」という数値を使います。
臨床判断値には次の3つがあります。
診断閾値(カットオフ値)
たとえばPSAという検査項目があります。PSAは前立腺がんの患者さんで数値が高くなります。そのためPSAが一定の数値を超えれば前立腺がんと診断される、または前立腺がんの可能性がかなり高いため精密検査が必要、ということになります。
ほかにもTPやRPRは梅毒、HBsAgはB型肝炎の検査項目ですが、これらの検査値が一定の数値を超えれば、梅毒やB型肝炎と診断されます。
このように、「検査値がこの数値より高い/低い場合、この病気と診断できる(または病気である可能性がかなり高い)」という数値のことを、診断閾値(カットオフ値)といいます。
治療閾値
治療閾値は、「この数値より高い/低い場合、治療が必要になる」数値のことです。
例を挙げると、クレアチニンは腎臓から尿に排出される老廃物です。つまり腎臓のはたらきが悪いと、クレアチニンが排出できず、血液中に増えてしまうため数値が高くなります。
腎臓が悪いと透析が必要になるため、クレアチニンの数値は透析が必要かどうかの判断基準になります。
ほかにも血小板は血液中に含まれる細胞で、出血したときに血を止めるはたらきがあります。血小板が少ないと出血したときに血が止まらなくなってしまいます。血小板の数値は、輸血などの治療が必要かどうかの判断基準になります。
予防医学閾値
予防医学閾値は、「この基準から外れているのを放置すると、将来病気になるリスクが高い」数値のことです。
コレステロールや中性脂肪の数値が高いと、動脈硬化やそれによる心筋梗塞、脳梗塞などのリスクが高くなるのは有名ですね。
将来の病気のリスクを判断するためのものなので、施設によっては人間ドックの基準範囲をこの予防医学閾値にしているところもあります。
基準範囲やこれらの臨床判断値、そして患者さんの症状やほかの検査結果などをあわせて、どんな病気か、どんな治療が必要かなどを、医師が判断しています。
検査結果の上手な使いかた
検査結果は基準範囲に入ったか外れたかで一喜一憂するのではなく、自分の今のからだの状態を知ったり、過去の自分と比較したりして健康管理をするために使うのがおすすめです。
たとえば「基準範囲より少し数値が高かったので病院で精密検査を受けたけど、異常はなかったし体調も良好。健康管理も気を使っている。毎年基準範囲より少し高いけど数値は安定している」という場合、病気が原因で数値が高いのではなく、それがその人のいつもの数値であると考えられます。
またγ-GTPは習慣的にお酒を飲んでいると数値が高くなる傾向があります。ASTやALTは肝臓の細胞に多く含まれており、お酒の飲みすぎなどで肝臓がダメージを受けると血液中に出ていくため高値になります。毎日たくさんお酒を飲む人が、「γ-GTPもASTもALTも一応基準範囲内だけど、年々数値が上がってるな…」と気づいてお酒の量を控えれば、その人のからだにとっていいことですよね。
ほかにも血糖値が300mg/dL(基準範囲は110mg/dL以下)だった人が、ちゃんとお薬を使って、暴飲暴食だった食生活も改めて、運動もするようになって、少しずつ血糖値が下がっていって150mg/dLになったとしたらどうでしょう?基準範囲からは外れていますが、「この調子でがんばろう」と言える数値ですよね。
一方で貧血の指標であるヘモグロビンの基準値は男性が13~16g/dL、女性が11~14g/dLですが、いつも14g/dL前後だった女性が突然11g/dLまで下がったとしたら?基準範囲内ではありますが、急に下がっているため胃や腸、子宮などから何らかの病気による出血も考えられます。精密検査を受けたほうがいいかもしれません。
このように基準範囲を目安にして、自分の過去の結果と比較しながら、検査結果を健康管理に役立ててみてください。
おわりに
「食生活が乱れぎみだけど、基準範囲から外れていないから大丈夫〜」とか、「基準範囲から外れたけど、ちょっとだけだから問題ないでしょ」と考えてしまっては、せっかく検査をした意味がありません。
自分のからだの調子を知るための検査、ぜひ有効に活用してくださいね。