病気やケガのとき困らない?自分の血液型を知らない人が増えているワケ
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みなさんはご自身の血液型を知っていますか?
一定以上の年齢のかたなら、特に入院などをしたことがなくても、小さいころにご両親に教えてもらったというかたが多いと思います。
私もそうです。ちなみに私はAB型です。
ところが最近、特に若い世代で「自分の血液型を知らない」というかたが増えています。「そういえば自分の血液型は知っているけど、子どもの血液型は知らない…」というかたも多いのではないでしょうか。
「なんで血液型を知らない人が増えているの?」
「血液型を知らないと、病気やケガをしたときに困るのでは?」
という疑問に、血液型を調べるお仕事の人がお答えします。
そもそも血液型とは?
おなじみのA型、B型、O型、AB型という血液型ですが、そもそも血液型とは何なのか、それぞれ何が違うのかご存知ですか?
血液型は「赤血球」のタイプによって分類されています(赤血球は血液中に含まれており、体中に酸素を運んでいる細胞です)。
この赤血球の表面には、「抗原」というものがあります。抗原はさまざまな細胞や細菌、ウイルスなどがもっている、糖質やタンパク質からなる物質です。ひとのからだはこの抗原のかたちを認識することで、自分の細胞と敵(ウイルスなど)を区別しています。
つまり抗原は、細胞の表面に目印になる旗が立っているようなものです。自分の旗が立っていれば「これは自分」、見覚えのない旗が立っていれば「こいつは敵」、というイメージです。
赤血球には「A抗原」と「B抗原」という2種類の旗(抗原)があります。A抗原だけがあればA型、B抗原だけがあればB型、A抗原もB抗原もなければO型、A抗原とB抗原の両方があればAB型となります。
また血液には、抗体というものも含まれています。からだは敵の侵入を感知すると、敵を排除しようとします。このとき敵を攻撃するためにつくられるのが、抗体と呼ばれるタンパク質です。
「ワクチンを打って抗体をつける」とか言いますよね。あの抗体です。
抗原と抗体、からだを守る免疫のしくみについては、こちらの記事に詳しく書いたので読んでみてくださいね。
抗原が自分の細胞やウイルスごとに異なるかたちをしているように、抗体もそれぞれの抗原に対応するかたちをしています。
そして血液型の場合、自分が持っていない抗原を攻撃する抗体が血液中に含まれています。
つまりA型の人の場合、A抗原はあるけどB抗原がないので、血液中にはB抗原を攻撃する抗B抗体が含まれています。B型にはA抗原がないので抗A抗体、O型にはA抗原もB抗原もないので抗A抗体と抗B抗体の両方が含まれています。AB型はA抗原とB抗原の両方があるので、抗A抗体も抗B抗体もありません。
ちょっとややこしいですが、血液型と抗原、抗体の関係は以下の表のとおりです。
血液型を調べるときは、この抗原と抗体をそれぞれ調べます。
たとえば抗原を調べたらA抗原があるからA型、同じ人の抗体を調べたら抗B抗体があるからA型、というように、抗原と抗体の両方の検査結果が一致してはじめて、血液型が確定します。
血液型を知らない人が増えているワケ
血液型を知らない人が増えている大きな理由は、「赤ちゃんが生まれたときに血液型を調べなくなったから」です。
以前は多くの病院で、赤ちゃんが生まれたらサービスとして血液型を調べていました。しかし現在は輸血が必要などの理由がなければ、基本的には調べません。それには以下のような理由があります。
正確な検査結果が出ないから
先ほどもお話したように、血液型は抗原と抗体を調べます。
ですが赤ちゃんはまだ抗体を十分につくれません。赤ちゃんとお母さんは胎盤でつながっていたので、お母さんの抗体が赤ちゃんの血液に混じっていることもあります。また抗原の強さも大人より弱いです。
そのため赤ちゃんの血液型を検査しても、抗原と抗体の検査結果が一致せず、正確な結果が出ないことがあります。
つまり、たとえば本当はA型なのに、A抗原が弱くてO型と判定されたり、抗B抗体が少なくてAB型と判定されたりする可能性があるわけです。
個人差がありますが、抗原と抗体の量や強さが大人と同じになって正確に検査できるようになるのは、4〜7歳ごろと言われています。
採血が大変だから
赤ちゃんの血液型を調べていたころは、あまり痛みを感じにくい耳たぶやかかとに針を刺して、ごく少量の血液で検査していました。
ですがそれだと正確な結果が出ないので、今はほとんど行っていません。血液型を調べるなら、ちゃんとした採血が必要です。
赤ちゃんの手や腕ってムチムチしていてかわいいですが、血管が大人より細いため採血はかなり難しいです。
おまけに赤ちゃんは、「採血するから腕を出して動かないで」なんて言っても通じません。泣いて嫌がります。針を刺すときに動くと危険ですから、何人ものスタッフで押さえつけて採血します。
輸血が必要な場合はやむを得ませんが、ただ血液型を知りたいからというだけでそれをやるのはかわいそうです…。
血液型を知らないと、病気やケガのときに困るのでは?
「交通事故にあったときなどに、自分の血液型を知らないと大変なんじゃないの?」と心配されるかたもいるかもしれませんが、そこは心配いりません。
というのも、患者さんやご家族から「A型です。A型の血液を輸血してください」と言われて、「じゃあA型を輸血しよう」と検査もせずに輸血するなんてことはありえません。
患者さんやご家族の自己申告だと、生まれたときの正確ではない方法での検査だったり、患者さん側の記憶違いだったりすることがあるからです。
特に血液型に関しては、基本的に病院は自分のところで検査した結果しか信じません。ほかの病院から転院搬送されてきた患者さんで、前の病院で血液型を検査していたとしても、必ず自分のところで検査してから輸血します。
たとえばA型の患者さんに、間違えてB型の血液(赤血球)を輸血してしまったとします。
輸血された血液中の赤血球はB抗原をもっており、患者さんの赤血球にはA抗原はありますがB抗原はありません。そのため患者さんのからだは輸血された赤血球のB抗原を「敵が侵入してきた!」と認識し、自分がもつ抗B抗体で攻撃をしてしまいます。
それにより患者さんのからだの中では、輸血された赤血球がどんどん壊されてしまい、血圧低下や腎不全などを引き起こし、最悪の場合亡くなることもあります。
医療従事者として絶対やっちゃいけないレベルの、一発アウトの医療ミスですね。
そのため輸血する際には、必ず輸血を行う病院で血液型を検査します。
今すぐ輸血しなければ命が危ない、検査している時間がない、というような状況では、O型の血液(赤血球)製剤を使います。
先ほどお話ししたとおり、O型の人はA抗原もB抗原も持っていません。そのためO型の赤血球には抗A抗体も抗B抗体も攻撃しないので、どの血液型の人にも輸血できるわけです。そしてO型を輸血しているあいだに患者さんの血液型を検査し、結果が出しだい同じ血液型の製剤に切り替えます。
そんなわけで、実は患者さんが自分の血液型を知っていても、正直あまり意味がないんです。
大人になると血液型が変わる?
「大人になって血液型が変わった」という話を聞いたことがあるかもしれませんが、骨髄移植でもしないかぎり、生まれたときの血液型が変わることはありません。
それは赤ちゃんのころの正確ではない検査結果だったか、記憶違いかのどちらかというケースがほとんどです。
血液型を知りたい場合は?
血液型の検査は、輸血が必要な場合に限り保険適用になります。病気やケガで血液が足りていない人や、手術を予定していて手術中に出血が予想されるので手術前に血液型を調べておく人などは保険適用ですね。
こうしたケース以外、つまり血液型を知りたいだけという場合は、病院で検査することはできますが、保険適用にならないので自費になります。費用は病院にもよりますが、2,000〜3,000円くらいです。
私が働く病院では、小児科でアレルギーなどの検査で採血をするときに、「せっかくだから血液型も調べようかな」とついでに血液型を調べるぶんも採血することがありますよ。
大人の場合、人間ドックでもオプションで調べられます。また16歳以上なら、献血すれば無料で検査してもらえますよ(※検査してほしいからといって、献血できる基準を満たしていないのに問診で嘘をつくなどの行為は、決してしないようにお願いします)。
書類に血液型を書く欄があるけど…
お子さんがいるかたは、園や学校の名札や書類などに、血液型を書く欄があることがありますよね。
ですが無理に調べる必要はありません。空欄にしておくか、検査していないことを記入しておけば大丈夫です。
園や学校側も、「万が一のときのために園や学校が知っておいたほうがいいのでは」とか、「赤ちゃんの血液型を調べていたころの書式のまま」などといった理由で血液型を書く欄があるのでしょう。
ですが先ほどお話ししたように、輸血するときは病院で血液型を調べるので、名札や書類に書いていなくても問題はありません。
おわりに
自分の血液型を知らない人が増えている理由についてお話しました。
血液型を知らなくても、輸血など治療の面で困りませんので、安心してくださいね。