病気じゃないのに血小板が少ない?EDTA依存性偽性血小板減少症とは

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病気じゃないのに血小板が少ない?

血小板ってご存知ですか?血小板は血液に含まれている細胞の一種で、出血したときに血を止めるはたらきがあります。

そのため血小板が少なくなると、出血が止められなくなってしまいます。

血小板が少なくなる原因には血液の病気などがあります。しかし中には「病気でもなく、本当は血小板が少なくないのに、血液検査では血小板が少ないという結果が出る」というかたがいらっしゃいます。

今回は意外と知られていないけどときどき見かける、検査でだけ血小板が少なくなる「EDTA依存性偽性血小板減少症」についてお話しします。

血小板とは

血小板は、白血球や赤血球と同じく血液に含まれている細胞の一種です。

血液中の細胞

血小板には、出血したときに血を止めるはたらきがあります。血管が傷ついて出血すると、血液中を流れていた血小板が傷口にくっつきます。傷口にくっついた血小板から仲間の血小板を呼ぶ物質が放出され、まわりの血小板が集まって固まることで、傷口を塞いで止血します。

正常な血小板の大きさは、直径約2〜4マイクロメートル(1マイクロメートルは1ミリメートルの1000分の1)。赤血球が7〜8マイクロメートル、白血球が10〜15マイクロメートルですから、血”小”板という名前のとおり、血液中の細胞の中でも特に小さいことがわかりますね。

顕微鏡で見た血液細胞

こちらは血液を顕微鏡で見た写真です。たくさんある丸くて赤い細胞が赤血球で、真ん中に写っている大きな細胞は、見た目は違いますがどちらも白血球です(白血球には好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球の5種類があります)。

そして矢印で示した小さい細胞が血小板です。写真で見ると小ささが際立ちますね。

からだの細胞を擬人化したマンガ「はたらく細胞」でも、血小板は幼稚園生くらいの子どもの姿で描かれています。


血小板が少ないとどうなる?

血小板には出血を止めるはたらきがあるため、血小板の数が少なくなると出血しやすくなったり、出血したときに血がなかなか止まらなくなったりします。

健康な人の場合、血液1マイクロリットル中におよそ15〜30万個の血小板が含まれています(1マイクロリットルは1リットルの1000万分の1です)。

ちなみに目薬1滴がだいたい40マイクロリットルくらいです。目薬1滴くらいの血液に、約600〜1200万個の血小板がいるというわけですね。

この血小板が、1マイクロリットルあたり5万個以下になると出血しやすくなります。

特に2万個以下になると、

  • ぶつけた覚えがないのにからだのあちこちにアザができる。
  • 細かい点のようなアザ(紫斑)ができる。
  • 歯みがきをしたときに歯ぐきから出血し、なかなか止まらない。
  • 鼻血が止まりにくい。

といった症状があらわれます。さらに歯ぐきの出血や鼻血といった目に見える出血だけでなく、脳出血などを引き起こす危険もあります。

紫斑ができて皮膚科、歯ぐきの出血で歯科、鼻血で耳鼻科を受診した患者さんが、血液検査をしたら血小板が少なくて、実は血液の病気だとわかった、というケースも珍しくありません。

血小板が少なくなる原因

血小板数低下の原因

血小板がつくれなくなる

血小板は白血球や赤血球と同じく、骨の中にある骨髄というところでつくられます。骨髄はいわば血液の細胞をつくる工場ですね。

再生不良性貧血は、骨髄で血液細胞がつくられなくなる病気です。工場がストップしてしまったような状態ですね。そのため白血球も赤血球も、もちろん血小板もすべて少なくなります。

急性骨髄性白血病では、骨髄で白血病の細胞が大量につくられることで、正常な白血球や赤血球、血小板がつくれなくなってしまいます。工場で不良品ばかりつくられてしまって、正規品がほとんどできない状態です。

ちなみに白血病にはさまざまな種類があり、慢性骨髄性白血病では逆に血小板が増えます。

血小板が壊される

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)という血液の病気では、本来はウイルスなどの敵からからだを守るための免疫に異常が起き、自分の血小板を壊してしまうことで血小板が少なくなります。

ほかにも肝硬変でも血小板が少なくなります。肝硬変は肝炎ウイルスやお酒の飲みすぎなどが原因で肝臓に炎症が起こり、肝臓の細胞が壊れる→再生するをくり返すことで線維化(かさぶたのようなものができて機能が失われた状態)する病気です。

肝硬変では肝臓が硬くなることで、肝臓へ血液を送る門脈という血管の流れが悪くなり、かわりに上流にある脾臓に血液が溜まってしまい、脾臓が大きくなります(脾腫)。脾臓は古い血小板を壊すはたらきがありますが、脾腫になることで血小板を壊しすぎてしまうため、血小板数が低下します。

血小板を使い切ってしまう

播種性血管内凝固症候群(DIC)という病気を発症すると、出血したときに血液を固めて止血するはたらき(凝固)が強くなりすぎてしまい、全身の血管に小さな血のかたまり(血栓)がたくさんできて、血管を詰まらせてしまいます。

DICでは血栓ができるときに血小板が使い果たされてしまうため、血小板数は低値になります。

このほかにもお薬や感染症、妊娠などが原因で血小板が少なくなることもあります。

病気じゃないのに血小板が少ない?

EDTA依存性偽性血小板減少症(EDP)とは

採血管

血液の病気などで少なくなってしまう血小板ですが、実はそうした原因がないのに、血液検査では血小板が少ない、というかたがいらっしゃいます。

その原因は、採血した血液を入れる採血管にあります。

血液には出血したときに止血できるように、血管の外に出ると固まるはたらき(凝固)があります。ですが白血球や赤血球、血小板の数や形などを調べる場合、血液が凝固した状態では正確な検査ができません。

そこで血液の凝固を防ぐ「抗凝固剤」という薬剤が入っている採血管を使います。抗凝固剤入りの採血管に採血すれば、抗凝固剤と血液が混ざるため、採血管の中で血液が凝固しないようになっています。

白血球や赤血球、血小板などの数や形を調べる検査を「血算検査」といいますが、血算検査ではおもに「EDTA」という抗凝固剤を使います。

しかしまれに、EDTAと血液が反応することで血小板どうしが集まって固まってしまう(血小板凝集を起こす)体質のかたがいらっしゃいます。

血算検査は、ひと昔前は顕微鏡で細胞をひとつひとつ数えていましたが、現在はほとんどの病院や検査センターでは検査機器で計測されています。

検査機器は白血球や赤血球、血小板を大きさで判別して計測しているので、血小板が凝集していると、検査機器は血小板のかたまりを正確に計測することができません。そのため本当の血小板の数よりも少ない結果になってしまいます。

EDTA依存性偽性血小板減少症

これを「EDTA依存性偽性血小板減少症(EDP)」といいます。ちょっと名前が長くてややこしいですが、

  • EDTA依存性=EDTAが原因で
  • 偽性=ニセモノの、ウソの
  • 血小板減少症=血小板の数が減る状態

という意味ですね。

EDPは検査でわかる?

EDPの検査

検査機器で血小板が少ないという結果が出た場合、血液の病気などが原因で少なくなっているのか、それともEDPなのかを判断する必要があります。EDPに気づかないと、本当は血小板が少なくないのに輸血をしてしまうなど、不要な治療が行なわれてしまうかもしれませんからね。

出血や紫斑がない、血小板が少ない以外に検査結果に異常がなく、血液の病気とも考えにくい、血液が凝固しているわけでもない(採血しづらくて時間がかかったなどの理由で血液が凝固してしまうと、血のかたまりに血小板がからめとられてしまい、血小板が見かけ上少なくなります)…このような場合はEDPが疑われます。

EDPが疑われる場合、EDTA入り採血管に採血した血液をスライドガラスに塗り、顕微鏡で観察してみます。EDPであれば血小板がたくさん集まって凝集しているのが確認できます。

またEDTA以外の抗凝固剤(ヘパリンやクエン酸ナトリウム)入りの採血管や、抗凝固剤が入っていない採血管に採血しなおしてもらい、その血液を検査して血小板の数を確認します。

EDPであれば、EDTA以外の採血管で採血した血液を検査すると、血小板数は低下していないことが多いです(ほかの抗凝固剤でも血小板が少し凝集してしまうかたもいます。また抗凝固剤なしの採血管の場合は時間が経つと血液が凝固してしまうため、採血後すぐに測定する必要があります)。

ほかにもEDTA入り採血管に採血した血液に、カナマイシンや硫酸マグネシウムなどの薬剤を入れ、凝集した血小板をバラバラに戻すという方法もあります。

  • 血液の病気などの血小板が少なくなる原因がない。
  • 血液が凝固していない。
  • 顕微鏡で血小板の凝集が確認できる。
  • EDTA以外の採血管では血小板数の低下がない。
  • カナマイシンや硫酸マグネシウムなどの薬剤を入れて測定すると、血小板数の低下がない。

以上のような場合に、EDPだと判断されます。

EDPになったらどうする?

全体の0.1〜0.2%のかたがEDPだといわれています。何かしらの病気を抱えているかたに多いとされていますが、健康な人が人間ドックでみつかるというケースもあります。

EDPは免疫のはたらきなどが原因ではないかと考えられていますが、はっきりとした原因はまだわかっていません。

ですがEDPであっても、特に治療は必要ありません。採血管の中で血小板が凝集するだけなので、からだの中で血小板が少なくなったり血栓ができたりしているわけではないからです。

またEDTA以外の採血管やカナマイシンなどの薬剤を使うことで、EDPのかたも本来の血小板数を測定することができますからご安心ください。

ご自身がEDPとわかっているかたは、診察や採血のときに申し出ていただければ、あらかじめEDTA以外の採血管を用意しておくなどの対応ができますから、検査がスムーズにできますよ。

私が働く病院では、EDPの患者さんは電子カルテに登録されているので、検査のときにわかるようになっています。

おわりに

EDTA依存性偽性血小板減少症(EDP)についてご紹介しました。

EDPでは実際には血小板が少なくないのに、採血管の中で血小板が凝集するため、検査では少ないという結果になってしまいます。

EDPでは治療は必要ありません。そのためEDPのかたに不必要な検査や治療をしてしまわないためにも、血小板が少ない場合に血液の病気などによるものなのか、EDPによるものなのかを見極めることが大切です。


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