アップルウォッチで不整脈がわかる?心電図機能を使いこなすポイントを解説
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スマートウォッチには心電図を記録する機能が搭載されている機種があります。アップルウォッチが代表的ですね。健康管理に利用されているかたも増えているのではないでしょうか。
今まで心電図は、人間ドックや病院を受診したときでなければ検査することができませんでした。それが腕につけたデバイスで、いつでもどこでも誰でも記録できるというのだから驚きですよね。
ですが病院や健診で記録する心電図と、スマートウォッチで記録する心電図がまったく同じものかというと、そうではありません。便利な反面、気をつけておきたいことがあります。
今回は心電図が記録できるスマートウォッチとして代表的なアップルウォッチについて、心電図をとる前に知っておきたいポイントを、病院で心電図を検査している臨床検査技師がお話しします。
そもそも心電図とは?
心臓は、心臓の中にある洞結節というところから発生する電気信号で動いています。正常な心臓では、洞結節から電気信号が規則正しく発生して心臓を伝わっていくことで、一定のリズムで心臓が動き、からだ中に血液を送り出しています。その電気信号の流れを波形にしたものが心電図です。
ところが電気信号が規則正しく出なかったり、途中でブロックされてしまったりすると、脈が乱れてしまいます(これを不整脈といいます)。また心筋梗塞などの心臓の病気でも心電図の波形が変化します。
心電図を検査することで、「心臓の病気があるかどうか」や「どのような種類の不整脈なのか」などがわかります。
アップルウォッチの心電図で何がわかる?
アップルウォッチには、「家庭用心拍数モニタプログラム」と「家庭用心電計プログラム」という、2つの心電図のプログラムが搭載されています。
このプログラムには、ざっくり言うと
「脈の乱れを知らせてくれる」
「心電図を記録できる」
という機能があります。
この2つのプログラムは、2020年に厚生労働省から医療機器として認証されているんですよ。
脈の乱れを知らせてくれる(家庭用心拍数モニタプログラム)
アップルウォッチの背面(腕につけたときに手に触れる面)にはセンサーがついていて、身につけているあいだ心拍数を計測しています。
また脈が乱れて心房細動が疑われる場合には、通知がくるようになっています。
心臓は左心室、右心室、左心房、右心房という4つの部屋に分かれています。そのうち左右の心房で不規則な電気信号がたくさん発生することで、心房が小刻みに震えた状態になってしまうのが心房細動です。心房細動になると脈が不規則になるため、血液がよどんで血の塊(血栓)ができやすくなります。この血栓が血流によって脳まで運ばれると、脳の血管がつまって脳梗塞を起こす可能性があります。
心電図が記録できる(家庭用心電計プログラム)
アップルウォッチをつけた状態でアプリを起動し、本体にあるデジタルクラウン(本体の横についている突起)を、アップルウォッチをつけている手とは反対の手の指で触ると、心電図を記録することができます。
記録された心電図は、以下の5つに分類されます。
- 洞調律…心拍数(心臓が1分間に脈打つ回数)が50〜100回で、一定のリズムで動いている。
- 心房細動…脈が不規則になっている(ただし高心拍数や低心拍数の場合は心房細動とは判定されない)。
- 高心拍数または低心拍数…脈がはやい(心拍数が150※バージョン1は120以上)、または脈がゆっくり(心拍数が50以下)である。
- 判定不能…心電図を分類できない。
- 記録状態が良好でない…正しく記録できていない。
症状などを記録することもできますし、PDFで書き出すことも可能です。
症状があったときの心電図を記録して、医師に見せることもできますね。
アップルウォッチで心電図をとるメリットは?
いつでもどこでも心電図が記録できる
アップルウォッチで心電図をとる最大のメリットは、いつでもどこでも記録できることです。
胸が痛いなどの症状があって病院を受診したとしても、まず病院へ行き、受付をして順番を待って、診察を受けて…と、心電図を検査するまでにけっこう時間がかかりますよね。「検査するころには症状が治まっていた」という患者さんもいらっしゃいます。
一方でアップルウォッチなら、症状があるときにすぐに心電図を記録することができます。
症状がない脈の乱れがわかる
心房細動が疑われるときに知らせてくれるのもメリットです。
心房細動になると、動悸や息切れ、疲れやすいなどの症状があらわれますが、一方で症状がないというかたも少なくありません。
さらに心房細動には、「常に脈が不規則なタイプ」と、「規則正しい脈だったのが突然不規則になり、また突然規則正しい脈に戻るタイプ(発作性心房細動)」があります。発作性心房細動の場合、心房細動の発作が起きているときに心電図を検査しないと発見できません。
そのため心房細動になっているのに気づいていない、健康診断などで心電図を検査してもみつからない、というケースもあります。
その点アップルウォッチなら、普段身につけているだけで心房細動がみつけられるかもしれませんから、これは大きなメリットですね。
実際にアップルウォッチがきっかけで心房細動が発見できたという報告もあるそうです。
アップルウォッチで心電図をとるときの注意点は?
症状があるときに記録する
先ほどもお話ししたとおり、アップルウォッチはいつでもどこでも心電図が記録できるのがメリットです。
このメリットを活かして、胸が痛い、ドキドキする、息切れがする、脈が不規則になっている、心房細動の通知がきた、というような症状があれば、今まさに症状が起きているそのときに心電図を記録しましょう。どのような症状だったかもあわせて記録しておくといいですよ。
「症状があるときに記録したけど異常と判定されなかった」という場合でも、「一度記録して問題なかったから大丈夫」ではなく、その後も症状が続くようならその都度心電図を記録し、病院を受診しましょう。
あとで病院に行ったときには症状が治まっていたとしても、症状があるときの心電図を医師に見せれば、病気をみつける手がかりになる可能性があります。
また血圧のように、症状がなくても定期的に記録するのもおすすめです。症状があるときとないときの心電図を比較することもできますし、症状がなくても心電図で異常が検出される可能性もありますからね。
正しく記録する
心電図は正しい方法で記録されていなければ、診断や治療に活かすことができません。
アップルウォッチの心電図アプリを使うときには、はじめに使いかたの説明が表示されます。よく読んで説明のとおりに記録してくださいね。
特に大切なポイントは以下のとおりです。
記録中に指や手を動かさない
心電図を記録するときは、腕をテーブルなどの安定したところに置き、指や手を動かさないようにして記録しましょう。
記録中に指や手を動かしてしまうと、心電図の波形が揺れてしまい、正しく読みとることができません。力が入りすぎても波形が揺れてしまうことがあるので、リラックスした状態で記録してくださいね。
アップルウォッチを正しく装着する
アップルウォッチは背面にあるセンサーで脈を検知しているため、装着がゆるくて浮いていると、波形が揺れてしまって正しく記録することができません。バンドを調節して、背面が腕にぴったりくっつくようにして記録しましょう。
汗をかいていたり、手を洗ったあとで腕やアップルウォッチが濡れていたりしても、波形が揺れてしまいます。水分を拭き取ってから記録してくださいね。
また電化製品の近くでは波形が乱れるおそれがあります。電化製品からはなるべく離れて記録しましょう。
設定した腕で記録する
アップルウォッチで心電図を記録する前に、左右どちらの腕で記録するか設定する必要があります。
これはアップルウォッチを左右どちらの腕につけるかによって、記録される心電図の波形に違いが出てくるため、装着した腕にあわせて設定する必要があるためです。
設定したのとは逆の腕で記録すると波形に影響する可能性がありますから、必ず設定した腕で記録しましょう。
通常の心電図も両手首に電極(センサー)をつけるのですが、電極を左右逆につけると波形が全然違ってしまうんですよ。
自己判断をしない
病院などで検査する一般的な心電図は「標準12誘導」というものです。両手両足と胸に全部で10個の電極をつけ、心臓の電気信号をさまざまな方向からみた12種類の波形を記録します。
一方でアップルウォッチは波形が1種類しか記録できません。また先ほどもお話ししたとおり、アップルウォッチでは、心電図を「洞調律」、「心房細動」、「高心拍数/低心拍数」、「判定不能」、「記録状態が悪い」の5種類にしか分類できません。しかし実際はこの5種類以外にも、房室ブロックや心室頻拍、心筋梗塞、弁膜症など不整脈や心臓の病気は多岐にわたります。
つまりアップルウォッチの心電図は通常の心電図よりも情報量が少ないわけですから、心臓の病気を検出できないことも十分にありえます。
さらに心電図だけで心臓の病気がすべてわかるというわけでもありません。病院では血液検査や心エコーなどほかのさまざまな検査と組み合わせて、心臓に病気がないかを医師が判断します。
そのためアップルウォッチの心電図で異常がなかったとしても、心臓にまったく問題がないとは言い切れません。
「アップルウォッチで心電図を記録したら異常なしだったから大丈夫」と自己判断せず、健康診断を定期的に受けたり、胸が痛いなどの症状があれば病院を受診したりすることをおすすめします。
またすでに心臓の病気と診断されているかたは、アップルウォッチの心電図で異常がなかったからといって、処方されている薬を飲むのをやめたり、通院を中断してしまったりすることのないようにしてくださいね。
おわりに
アップルウォッチの心電図について、知っておきたいポイントについてご紹介しました。
アップルウォッチの心電図では、心臓の病気がすべてわかるわけではありません。ですが今までは病院へ行かなければ検査できなかった心電図が、いつでもどこでも手軽に記録できるようになったのは大きなメリットです。
アップルウォッチの心電図の特徴を理解したうえで、上手に健康管理に役立ててくださいね。