今さら聞けない PCRと抗原検査と抗体検査の違い

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PCRと抗原検査と抗体検査の違い

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コロナ禍が始まってから、テレビなどで毎日のように耳にする「PCR検査」。そのほかにも「抗原検査」や「抗体検査」というワードもよく聞きますよね。

どれも新型コロナウイルス感染を調べる検査ですが、

「なぜ3種類もあるの?それぞれ何がどう違うの?」

と疑問に思っているかたも多いのではないでしょうか。

PCRも抗原検査も抗体検査も、病院や保健所、検査センターなどで実際に検査を行っているのは臨床検査技師です。

私もコロナ禍が始まって以来、抗原検査を嫌というほどやってきました。今回はそんな臨床検査技師が、新型コロナウイルスの検査方法の違いについてお話します。

PCR検査

PCR

PCR検査とはどんな検査?

PCRは「ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)」の略で、ざっくり言うと「遺伝子をたくさん増やす技術」です。

PCR検査では、鼻に綿棒を入れられたり、唾液を採取したりしますよね。これらの粘液や唾液からウイルスの遺伝子を取り出し、それを増やすことによって検出しています。

つまりPCR検査は、「採取した粘液や唾液の中にウイルスの遺伝子があるかどうか」を調べることで、からだの中にウイルスがいるかどうか=現在感染しているかを調べる検査です。

ちなみにPCRは、新型コロナウイルスを調べるだけの技術ではありません。生物学や医学の分野では、さまざまな生物の遺伝子を研究するためにPCRが使われていますし、考古学では化石などを調べるためにも使われています。親子関係を判定するDNA鑑定もPCRです。

刑事ドラマなどで「容疑者のDNAと現場に残されていたDNAが一致した」みたいなシーンがよくありますよね。あれにもPCRが使われています。

メリットとデメリット

PCR検査はごくわずかなウイルスの遺伝子を増やして検出できるため、抗原検査よりも感度(ウイルスに感染している人を、検査で正しく陽性と判定できる=感染者を見逃さない確率)が高いといわれています。

ですが感染直後はウイルスの量が少ないため、PCR検査をしてもウイルスが検出できないことがあります。

またPCR検査はごくわずかな遺伝子を増やして検出するため、死んだウイルスや細菌、細胞などの遺伝子が検査に影響を与えてしまうこと(コンタミネーション)もあります。

さらにPCR検査は専用の検査機器が必要なため、検査できるのは保健所や検査センター、それなりの規模の病院などに限られます。

また遺伝子を増やすのに時間が必要なため、結果が出るのに1〜2日かかることが多いです。

検査方法も複雑なため、誰にでもできる検査ではありません。PCR検査を主に行っているのは臨床検査技師ですが、臨床検査技師であっても技術や経験が必要になる検査のため、臨床検査技師全員がPCR検査ができるというわけではないのです。

ちなみに私もPCRのしくみなどは勉強しましたが、実際にはやったことがありません。

抗原検査

抗原と抗体とは?

抗原とは、ウイルスや細菌がもっている、タンパク質や糖質からなる物質です。

抗原はウイルスや細菌の種類ごとにそれぞれ違ったかたちをしています。つまり新型コロナウイルスには新型コロナウイルスの抗原があり、インフルエンザウイルスにはインフルエンザウイルスの抗原があるということです。

からだはこの抗原を見分けることで、「自分」か「自分ではない(=ウイルスなどの敵)」かを判別しています。

からだはウイルスや細菌などの侵入を検知すると、抗体というタンパク質をつくって攻撃します。

抗原がウイルスや細菌ごとに異なるかたちをしているように、抗体もそれぞれ特定の抗原に対応するようになっています。たとえば新型コロナウイルスの抗原には、インフルエンザウイルスに対する抗体ではなく、新型コロナウイルスに対する抗体が攻撃します。

抗原と抗体、免疫のしくみについて、詳しくはこちらの記事もご覧ください。

抗原検査とはどんな検査?

抗原検査でもPCR検査と同様に、鼻に綿棒を入れられたり、唾液を採取したりしますよね。この採取した粘液や唾液の中に、ウイルスの抗原があるかどうかを調べています。

検査キットには、人工的につくられたウイルスの抗体が入っています。もし採取した粘液や唾液の中にウイルスがいれば、ウイルスの抗原と検査キットの抗体が反応して、検出できるようになっています。

抗原が検出されれば、からだの中にウイルスがいる(=感染している)ということになります。

抗原検査には「定量検査」と「定性検査」の2種類があります。定量検査はウイルス抗原の量を測定する検査です。定性検査は量ではなく、抗原がある(陽性)か、ない(陰性)かを調べます。

抗原検査キット

抗原検査と聞いてイメージするかたが多い、上の写真のような検査キットは、定性検査のキットです。抗原と抗体が反応すると、ラインが浮かび上がるようになっています。新型コロナウイルスだけでなく、インフルエンザウイルスや溶連菌などの検査キットもありますよ。

メリットとデメリット

わずかな遺伝子でも増やして検出することができるPCR検査に比べると、ある程度ウイルスの量が必要な抗原検査は、感度がやや劣る傾向にあります。またPCR検査と同様に、感染直後はウイルスの量が少ないためウイルスが検出できないことがあります。

しかし定量検査は検査機器が必要になるものの、定性検査であれば先ほどの写真のような検査キットで検査できるので、検査機器の導入が難しいクリニックやご家庭でも検査が可能です。検査方法もPCR検査と比べてそこまで難しくはありません。

また抗原と抗体が反応すれば検出できるので、30分から1時間程度で結果がわかります。

抗体検査

抗体検査とはどんな検査?

採血

先ほどもお話ししたように、ウイルスがからだの中に侵入してくると、からだはウイルスの抗原に対する抗体をつくって攻撃します。この抗体を調べるのが抗体検査です。

抗体は鼻や喉の粘液や唾液ではなく、血液中に含まれています。そのため抗体検査では採血を行い、血液を調べます。

メリットとデメリット

PCR検査はウイルスの遺伝子、抗原検査は抗原を検出するのに対して、抗体検査ではウイルスが侵入してきたことでからだがつくった抗体を検出します。

そのため抗体検査は、「今からだの中にウイルスがいるか(=感染しているか)」についてはわかりません。ウイルスに感染したことで血液中に抗体ができているわけですから、抗体検査は「過去にウイルスに感染したことがあるか」がわかります。

またワクチンを打った人の血液からも抗体は検出されます。ワクチンを打ってあらかじめ抗体をつくっておくことで、ウイルスが侵入してきたときにその抗体ですばやく攻撃することができるので、発症や重症化のリスクを下げることができるわけです。

抗体の量が多ければ、それだけウイルスを攻撃しやすいということですから、ウイルスに感染しづらい、感染しても軽症で済む可能性が高くなります。

そのため抗体の量を測定することで、「どのくらい感染や重症化しづらいか(=免疫ができているか)」もわかります(抗体の量が多いからといって、必ず感染や重症化をしないというわけではありませんが)。

ちなみに抗体検査とPCR検査、抗原検査では調べるものが違いますから、ワクチンを打ったあとにPCR検査や抗原検査を受けても、ワクチンのせいで陽性になることはありません。

まとめ 

PCR検査、抗原検査、抗体検査の特徴をまとめると、以下の表のようになります。

PCRと抗原検査と抗体検査の違いの表

それぞれウイルスの何を調べるかが異なりますし、メリットとデメリットもあるため、目的に応じて使い分けられています。

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